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adjacency_matrix

adjacency_matrix<Directed, VertexProperty, 
                 EdgeProperty, GraphProperty,
                 Allocator>

adjacency_matrix クラスは 従来からの隣接行列を用いて BGL グラフインタフェースを提供する。 頂点数 V のグラフに対して、 V x V 行列を用いる。 その行列では、各要素 aij は 頂点 i から 頂点 j への辺が存在するか否かを示すブール値のフラグである。 図 1 ではグラフの隣接行列表現が示されている。

図 1: 有向グラフの隣接行列表現。

この隣接行列形式の隣接リストに対する利点は辺の挿入と削除が定数時間で終了するという点である。 いくつか不便な点もある。 まず1つ目は、使用するメモリの量が O(V + E) (ここで、E は辺の数) ではなく、 O(V2) である という点である。 2つ目は、全ての辺を辿る処理(例えば、幅優先探索)は、 O(V2) 時間内で実行されるが、 隣接リストでは O(V + E) 時間である。 つまり、密度の高い(E が V2に近い)グラフに対しては、 adjacency_matrix の方がよく、 密度の低い(E が V2 よりもずっと小さい)グラフに対しては、 adjacency_list の方がよい ということである。 adjacency_matrix クラスはプロパティテンプレートパラメータを介して頂点と辺にオブジェクトを付与することを可能とすることで、 既存のデータ構造を拡張したものである。 第 XXX 章には内部プロパティの使用方法について説明がある。 無向グラフの場合には、 adjacency_matrix クラスは V x V 行列を全て使用せず、 代わりに下の三角部分(対角成分とその下)を用いる。 それは、無向グラフの隣接行列は対称行列となるからである。 これによって使用するメモリは (V2)/2 へと軽減される。 図 2 で無向グラフの隣接行列表現を示している。

図 2: 無向グラフの隣接行列表現。

Example

図1のグラフを生成する。

enum { A, B, C, D, E, F, N };
const char* name = "ABCDEF";

typedef boost::adjacency_matrix<boost::directedS> Graph;
Graph g(N);
add_edge(B, C, g);
add_edge(B, F, g);
add_edge(C, A, g);
add_edge(C, C, g);
add_edge(D, E, g);
add_edge(E, D, g);
add_edge(F, A, g);

std::cout << "vertex set: ";
boost::print_vertices(g, name);
std::cout << std::endl;

std::cout << "edge set: ";
boost::print_edges(g, name);
std::cout << std::endl;

std::cout << "out-edges: " << std::endl;
boost::print_graph(g, name);
std::cout << std::endl;

出力:

vertex set: A B C D E F 

edge set: (B,C) (B,F) (C,A) (C,C) (D,E) (E,D) (F,A) 

out-edges: 
A --> 
B --> C F 
C --> A C 
D --> E 
E --> D 
F --> A 

図2のグラフを生成する。

enum { A, B, C, D, E, F, N };
const char* name = "ABCDEF";

typedef boost::adjacency_matrix<boost::undirectedS> UGraph;
UGraph ug(N);
add_edge(B, C, ug);
add_edge(B, F, ug);
add_edge(C, A, ug);
add_edge(D, E, ug);
add_edge(F, A, ug);

std::cout << "vertex set: ";
boost::print_vertices(ug, name);
std::cout << std::endl;

std::cout << "edge set: ";
boost::print_edges(ug, name);
std::cout << std::endl;

std::cout << "incident edges: " << std::endl;
boost::print_graph(ug, name);
std::cout << std::endl;

出力:

vertex set: A B C D E F 

edge set: (C,A) (C,B) (E,D) (F,A) (F,B) 

incident edges: 
A <--> C F 
B <--> C F 
C <--> A B 
D <--> E 
E <--> D 
F <--> A B 

Where Defined

boost/graph/adjacency_matrix.hpp

Template Parameters

パラメータ 説明 デフォルト
Directed グラフが有効か無向かを選ぶ選択子。オプションは directedSundirectedS directedS
VertexProperty 内部プロパティ記憶域を指定する。 no_property
EdgeProperty 内部プロパティ記憶域を指定する。 no_property
GraphProperty グラフのオブジェクトの内部プロパティ記憶域を指定する。 no_property

Model Of

VertexAndEdgeListGraph, AdjacencyMatrix, MutablePropertyGraph, CopyConstructible, and Assignable.

Associates Types

graph_traits<adjacency_matrix>::vertex_descriptor

adjacency_matrix と対応付けられた頂点記述子の型。

(Graph からの要求。)


graph_traits<adjacency_matrix>::edge_descriptor

adjacency_matrix と対応付けられた辺記述子の型。

(Graph からの要求。)


graph_traits<adjacency_matrix>::vertex_iterator

vertices() によって返されるイテレータの型。 この頂点イテレータはRandomAccessIteratorのモデルである。

(VertexListGraph からの要求。)


graph_traits<adjacency_matrix>::edge_iterator

edges() によって返されるイテレータの型。 この辺イテレータはMultiPassInputIteratorのモデルである。

(EdgeListGraph からの要求。)


graph_traits<adjacency_matrix>::out_edge_iterator

out_edges() によって返されるイテレータの型。 このイテレータはMultiPassInputIteratorのモデルである。

(IncidenceGraph からの要求。)


graph_traits<adjacency_matrix>::adjacency_iterator

adjacent_vertices() によって返されるイテレータの型。 このイテレータは出辺イテレータと同じコンセプトのモデルである。

(AdjacencyGraph からの要求。)


graph_traits<adjacency_matrix>::directed_category

グラフが 有向(directed_tag)であるか無向(undirected_tag)であるかに関する情報を提供する。

(Graph からの要求。)


graph_traits<adjacency_matrix>::edge_parallel_category

隣接行列は多重辺の挿入を許可しないので、 この型は常に disallow_parallel_edge_tag である。

(Graph からの要求。)


graph_traits<adjacency_matrix>::vertices_size_type

グラフの頂点数を扱うための型。

(VertexListGraph からの要求。)


graph_traits<adjacency_matrix>::edges_size_type

グラフの辺数を扱うための型。

(EdgeListGraph からの要求。)


graph_traits<adjacency_matrix>::degree_size_type

頂点からの出辺数を扱うための型。

(IncidenceGraph からの要求。)


property_map<adjacency_matrix, PropertyTag>::type
property_map<adjacency_matrix, PropertyTag>::const_type

グラフの頂点もしくは辺のプロパティに対するマップの型。 具体的なプロパティはテンプレート引数 PropertyTag によって指定され、 グラフの VertexProperty もしくは EdgeProperty で 指定されているプロパティの内の1つに適合していなければならない。

(PropertyGraph からの要求。)

Member Functions

adjacency_matrix(vertices_size_type n,
                 const GraphProperty& p = GraphProperty())

頂点数 n、辺数 0 であるグラフのオブジェクトを生成する。

(MutableGraph からの要求。)


template <typename EdgeIterator>
adjacency_matrix(EdgeIterator first,
                 EdgeIterator last,
                 vertices_size_type n,
                 const GraphProperty& p = GraphProperty())

頂点数 n で、辺が [first, last) の範囲で 与えられたリストで指定された辺をもつグラフのオブジェクトを生成する。 EdgeIterator の値の型は std::pair でなければならず、それは整数型の組である。 それら整数は頂点に対応し、[0, n) の範囲になければならない。 (IteratorConstructibleGraph からの要求。)


template <typename EdgeIterator, typename EdgePropertyIterator>
adjacency_matrix(EdgeIterator first, EdgeIterator last,
                 EdgePropertyIterator ep_iter,
                 vertices_size_type n,
                 const GraphProperty& p = GraphProperty())

頂点数 n で、辺が [first, last) の範囲で与えられたリストで指定された辺をもつグラフのオブジェクトを生成する。 EdgeIterator の値の型は std::pair でなければならず、それは整数型の組である。 それら整数は頂点に対応し、[0, n) の範囲になければならない。 ep_itervalue_typeEdgeProperty であるべきである。

Non-Member Functions

std::pair<vertex_iterator, vertex_iterator>
vertices(const adjacency_matrix& g)

グラフ g の頂点集合へのアクセスを提供するイテレータの範囲を返す。 (VertexListGraph からの要求。)


std::pair<edge_iterator, edge_iterator>
edges(const adjacency_matrix& g)

グラフ g の辺集合へのアクセスを提供するイテレータの範囲を返す。 (EdgeListGraph からの要求。)


std::pair<adjacency_iterator, adjacency_iterator>
adjacent_vertices(vertex_descriptor v, const adjacency_matrix& g)

グラフ g で頂点 v に隣接する頂点へのアクセスを提供するイテレータの範囲を返す。 (AdjacencyGraph からの要求。)


std::pair<out_edge_iterator, out_edge_iterator>
out_edges(vertex_descriptor v, const adjacency_matrix& g)

グラフ g で頂点 v の出辺へのアクセスを提供するイテレータの範囲を返す。 グラフが無向であれば、このイテレータの範囲は、頂点 v に接続する全ての辺へのアクセスを提供する。

(IncidenceGraph からの要求。)


vertex_descriptor
source(edge_descriptor e, const adjacency_matrix& g)

e の始点を返す。

(IncidenceGraph からの要求。)


vertex_descriptor
target(edge_descriptor e, const adjacency_matrix& g)

e の終点を返す。

(IncidenceGraph からの要求。)


degree_size_type
out_degree(vertex_descriptor u, const adjacency_matrix& g)

頂点 u を出る辺の数を返す。

(IncidenceGraph からの要求。)


vertices_size_type num_vertices(const adjacency_matrix& g)

グラフ g の頂点数を返す。

(VertexListGraph からの要求。)


edges_size_type num_edges(const adjacency_matrix& g)

グラフ g の辺数を返す。

(EdgeListGraph からの要求。)


vertex_descriptor vertex(vertices_size_type n, const adjacency_matrix& g)

グラフの頂点リスト内の n 番目の頂点を返す。


std::pair<edge_descriptor, bool>
edge(vertex_descriptor u, vertex_descriptor v,
     const adjacency_matrix& g)

グラフ g で、頂点 u を頂点 v へ接続する頂点を返す。

(AdjacencyMatrix からの要求。)


std::pair<edge_descriptor, bool>
add_edge(vertex_descriptor u, vertex_descriptor v,
         adjacency_matrix& g)

(u,v) をグラフへ追加し、その新しい辺への辺記述子を返す。 すでに辺があれば二重には追加されず、bool のフラグはfalseとなる。 この処理はグラフのいかなるイテレータ及び記述子を無効化することはない。

(MutableGraph からの要求。)


std::pair<edge_descriptor, bool>
add_edge(vertex_descriptor u, vertex_descriptor v,
         const EdgeProperty& p,
         adjacency_matrix& g)

(u,v) をグラフへ追加し、その新しい辺にその辺の内部プロパティ記憶域の値として、 p を付与する。 さらなる詳細は前にある非メンバ関数 add_edge() を見よ。


void remove_edge(vertex_descriptor u, vertex_descriptor v,
                 adjacency_matrix& g)

グラフから辺 (u,v) を削除する。

(MutableGraph からの要求。)


void remove_edge(edge_descriptor e, adjacency_matrix& g)

グラフから辺 e を削除する。 この操作は remove_edge(source(e, g), target(e, g), g) を呼び出すのと等価である。

(MutableGraph からの要求。)


void clear_vertex(vertex_descriptor u, adjacency_matrix& g)

グラフから頂点 u に接続する全ての辺を削除する。 その頂点はグラフの頂点集合からは削除されない。

(MutableGraph からの要求。)


template <typename Property>
property_map<adjacency_matrix, Property>::type
get(Property, adjacency_matrix& g)

template <typename Property>
property_map<adjacency_matrix, Property>::const_type
get(Property, const adjacency_matrix& g)

Property で指定される頂点プロパティへのプロパティマップのオブジェクトを返す。 Property はグラフのテンプレート引数 VertexProperty で指定されるプロパティの1つと適合していなければならない。

(PropertyGraph からの要求。)


template <typename Property, typename X>
typename property_traits<
  typenamae property_map<adjacency_matrix, Property>::const_type
>::value_type
get(Property, const adjacency_matrix& g, X x)

頂点もしくは辺の記述子 x に対するプロパティ値を返す。

(PropertyGraph からの要求。)


template <typename Property, typename X, typename Value>
void
put(Property, const adjacency_matrix& g, X x, const Value& value)

x をプロパティ値として value にセットする。 x は 頂点もしくは辺の記述子である。 Valuetypename property_traits<property_map<adjacency_matrix, Property>::type>::value_type に変換可能でなければならない。

(PropertyGraph からの要求。)


template <typename GraphProperty, typename GraphProperty>
typename property_value<GraphProperty, GraphProperty>::type&
get_property(adjacency_matrix& g, GraphProperty)

グラフのオブジェクト g に付与された GraphProperty で指定されたプロパティを返す。 特性クラス property_value は boost/pending/property.hpp で定義される。


template <typename GraphProperty, typename GraphProperty>
const typename property_value<GraphProperty, GraphProperty>::type&
get_property(const adjacency_matrix& g, GraphProperty)

グラフのオブジェクト g に付与された GraphProperty で指定されたプロパティを返す。 特性クラス property_value は boost/pending/property.hpp で定義される。


Japanese Translation Copyright (C) 2003 KANAHORI Toshihiro kanahori@k.tsukuba-tech.ac.jp

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