Boost1.49から導入されたBoost Move Libraryを使用することで、
- C++03環境でもムーブセマンティクスをエミュレートし、
- C++11とC++03の両方でムーブセマンティクスが使用できるポータブルなコードを書くことができる。
(TODO: エミュレーションの制限を書く)
インデックス
- コピー可能/ムーブ可能なクラスを定義する
- ムーブ可能な基底クラス/メンバ変数を使用する
- コピー不可/ムーブ可能なクラスを定義する
- ムーブセマンティクスに対応したコンテナを使用する
- エミュレーションの制限
- C++の国際標準規格上の類似する機能
コピー可能/ムーブ可能なクラスを定義する
- クラス宣言の
private
セクションに「BOOST_COPYABLE_AND_MOVABLE(クラス名)
」を置く。 - クラスの型の
const
参照を引数に取るコピーコンストラクタを定義する。 - 「
BOOST_COPY_ASSIGN_REF(クラス名)
」を引数に取るコピー代入演算子を定義する。 - 「
BOOST_RV_REF(クラス名)
」を引数に取るムーブコンストラクタとムーブ代入演算子を定義する。
template <class T>
class clone_ptr
{
private:
//コピー可能/ムーブ可能であることを示す
BOOST_COPYABLE_AND_MOVABLE(clone_ptr)
T* ptr;
public:
//コンストラクタ
explicit clone_ptr(T* p = 0) : ptr(p) {}
//コンストラクタ
~clone_ptr() { delete ptr; }
//コピーセマンティクス
//コピーコンストラクタ(クラスの型のconst参照を引数にとる)
clone_ptr(const clone_ptr& p)
: ptr(p.ptr ? p.ptr->clone() : 0) {}
// コピー代入演算子(BOOST_COPY_ASSIGN_REF(クラス名)を引数に取る)
clone_ptr& operator=(BOOST_COPY_ASSIGN_REF(clone_ptr) p)
{
if (this != &p){
T *tmp_p = p.ptr ? p.ptr->clone() : 0;
delete ptr;
ptr = tmp_p;
}
return *this;
}
//ムーブセマンティクス
//ムーブコンストラクタ(BOOST_RV_REF(クラス名)を引数に取る)
clone_ptr(BOOST_RV_REF(clone_ptr) p)
: ptr(p.ptr) { p.ptr = 0; }
//ムーブ代入演算子(BOOST_RV_REF(クラス名)を引数に取る)
clone_ptr& operator=(BOOST_RV_REF(clone_ptr) p)
{
if (this != &p){
delete ptr;
ptr = p.ptr;
p.ptr = 0;
}
return *this;
}
};
※ リソースを何も保持していないクラス(例えばstd::complex
など)は自分でコピーコンストラクタを定義する必要ない。(コンパイラがデフォルトで最適なコピーコンストラクタを定義するため)
ムーブ可能な基底クラス/メンバ変数を使用する
クラスのムーブコンストラクタ/ムーブ代入演算子が呼ばれる際に、適切に基底クラス、メンバ変数のムーブコンストラクタ/ムーブ代入演算子が呼ばれるようにする。
class Base
{
BOOST_COPYABLE_AND_MOVABLE(Base)
public:
Base(){}
Base(const Base &x) {/**/} // コピーコンストラクタ
Base(BOOST_RV_REF(Base) x) {/**/} // ムーブコンストラクタ
Base& operator=(BOOST_RV_REF(Base) x)
{/**/ return *this;} // ムーブ代入演算子
Base& operator=(BOOST_COPY_ASSIGN_REF(Base) x)
{/**/ return *this;} // コピー代入演算子
virtual Base *clone() const
{ return new Base(*this); }
virtual ~Base(){}
};
class Member
{
BOOST_COPYABLE_AND_MOVABLE(Member)
public:
Member(){}
// コンパイラが生成したコピーコンストラクタ...
Member(BOOST_RV_REF(Member)) {/**/} // ムーブコンストラクタ
Member &operator=(BOOST_RV_REF(Member)) // ムーブ代入演算子
{/**/ return *this; }
Member &operator=(BOOST_COPY_ASSIGN_REF(Member)) // コピー代入演算子
{/**/ return *this; }
};
class Derived : public Base
{
BOOST_COPYABLE_AND_MOVABLE(Derived)
Member mem_;
public:
Derived(){}
// コンパイラが生成したコピーコンストラクタ...
Derived(BOOST_RV_REF(Derived) x) // ムーブコンストラクタ
: Base(boost::move(static_cast<Base&>(x))),
mem_(boost::move(x.mem_)) { }
Derived& operator=(BOOST_RV_REF(Derived) x) // ムーブ代入演算子
{
Base::operator=(boost::move(static_cast<Base&>(x)));
mem_ = boost::move(x.mem_);
return *this;
}
Derived& operator=(BOOST_COPY_ASSIGN_REF(Derived) x) // コピー代入演算子
{
Base::operator=(static_cast<const Base&>(x));
mem_ = x.mem_;
return *this;
}
// ...
};
※ C++03のコンパイラでのエミュレーションによるムーブセマンティクスの制限として、上記のムーブコンストラクタではムーブの直前にBase &
へキャストする必要がある。(これによって正しくBase
クラスのムーブコンストラクタが呼ばれるようになる)
コピー不可/ムーブ可能なクラスを定義する
unique_ptr
やthread
など、コピー不可/ムーブ可能なクラスを、Boost.Moveを使用して定義できる。
- クラスの
private
セクションに「BOOST_MOVABLE_BUT_NOT_COPYABLE(クラス名)
」を置く。 - 「
BOOST_RV_REF(クラス名)
」を引数に取るムーブコンストラクタとムーブ代入演算子を定義する。
#include <boost/move/move.hpp>
#include <stdexcept>
class file_descriptor
{
int os_descr_;
private:
//コピー不可/ムーブ可能であることを示す
BOOST_MOVABLE_BUT_NOT_COPYABLE(file_descriptor)
public:
//コンストラクタ
explicit file_descriptor(const char *filename = 0)
: os_descr_(filename ? operating_system_open_file(filename) : 0)
{ if(!os_descr_) throw std::runtime_error("file not found"); }
//デストラクタ
~file_descriptor()
{ if(!os_descr_) operating_system_close_file(os_descr_); }
//ムーブコンストラクタ(BOOST_RV_REF(クラス名)を引数に取る)
file_descriptor(BOOST_RV_REF(file_descriptor) x)
: os_descr_(x.os_descr_)
{ x.os_descr_ = 0; }
//ムーブ代入演算子(BOOST_RV_REV(クラス名)を引数に取る)
file_descriptor& operator=(BOOST_RV_REF(file_descriptor) x)
{
if(!os_descr_) operating_system_close_file(os_descr_);
os_descr_ = x.os_descr_;
x.os_descr_ = 0;
return *this;
}
bool empty() const { return os_descr_ == 0; }
};
ムーブセマンティクスに対応したコンテナを使用する
Boost.Containerなど、ムーブセマンティクスに対応したコンテナを使用すると、コピー不可/ムーブ可能なクラスをコンテナに入れて扱える。
Boostにおける、ムーブ対応しているコンテナは以下:
- Boost.Containerの全てのコンテナ
- Boost.CircularBuffer (1.55.0から)
- Boost.Multi-Index (1.55.0から)
- Boost.Multi-Indexで実装されているBoost.Bimapも、自動的に対応
- Boost.Unordered (1.49.0から)
#include <boost/container/vector.hpp>
#include <cassert>
//'file_descriptor'クラスはコピー不可であるが、
//ムーブセマンティクスのおかげで関数から返すことが可能である
file_descriptor create_file_descriptor(const char *filename)
{ return file_descriptor(filename); }
int main()
{
//ファイルを開いてディスクリプタを取得する
//'create_file_descriptor'から返される一時オブジェクトは'fd'にムーブされる
file_descriptor fd = create_file_descriptor("filename");
assert(!fd.empty());
//fdをvectorの中へmoveする
boost::container::vector<file_descriptor> v;
v.push_back(boost::move(fd));
//所有権が移動したことを確認
assert(fd.empty());
assert(!v[0].empty());
//file_descriptorがコピー不可であり、vectorのコピーコンストラクタは
//value_typeのコピーコンストラクタを要求するので、
//以下のコメントアウトを外すとコンパイルエラーが発生する
//boost::container::vector<file_descriptor> v2(v);
return 0;
}
エミュレーションの制限
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